『 爪跡 』
ボンド,ベトン・ボンド。
さて,恒例になりましたM社の動向からお伝えします。
M社は,さる 7月23日(水)全従業員に対して,自主退職を募った様子です(企業として終焉に向かっているようです)。
もうひとつの関係生コン会社の動向については,特に情報がありませんが,継続は困難であろうといわれています。
生コン業界の視点から,M社問題を考察してみましょう。六会コンクリート
先ず,“ JIS取消処分 ” についてです。
一般にJIS工場にとって,“ 取消処分 ” ほど厳しい措置はありません。
この処分を受けた企業は,JISマークを表示できる権利を失います。
JISマークが表示された工業製品は数多く存在しますが,土木建築工事ではこのマークを取り分け重要視しています。
建築基準法では建築物に使用するコンクリートは,JISマーク表示製品でなければならないと規定していること等から,いかに重要視しているかがわかると思います。
すなわち,JISマーク表示は,生コンを出荷するために必要な必須アイテムなのです。
このJISマーク表示の権利が消失するわけですから,当然,消失した生コン会社の仕事は激減します(出荷量が縮小し,会社運営が崩壊します)。
ここで重要なことは,取消は,打設したコンクリートにポップアウトが発生したことが直接問題になった訳ではないことです。
取消原因は,規格(JIS A 5308)に規定していない骨材を使った生コンに JISマークを表示したことであり,そして,該当生コンの配合報告書に虚偽(偽装報告)が認められたことです。
この“偽装”は,食品業界を中心に流行している悲しい言葉であり,建物の構造設計分野でも騒がれています。
食品業界では,一部の企業が消費期限や産地を偽造して表示しました。
構造設計分野では,一部の設計事務所が構造計算を偽造して鉄筋の使用本数を減らしました。
これまでは,生コン業界以外の“遠い国のできごと”でしたが,今やわが身に火の粉が降りかかっています。
この“偽装”に至る経緯を考察しておく必要があります。
その多くが,“ 生きる ” そうせざるを得ないように追い込まれていったように思います(結果 “ 死んで ” いますが)。
会社運営には,“ 利益 ” をあげなければならないという宿命があります。
“ 弱肉強食 ” や “ 勝ち組・負け組 ”が流行しましたが,これは,“ 強いものは必ず勝ち残り,弱者は負け続けて勝つことがない ”という大変厳しい意味があります(ボンドは大嫌いな言葉です)。
しかしながら,この言葉が表す状況は,実際に起きています。
弱者は,まともに勝てないため,偽装をおこなってしまうのではないでしょうか。
会社の運営によらず,日常業務の中でも時折,度合いは異なりますが,道を外れるような選択を迫られることがあります。
その多くは,“ 時間がない ”,“ 人的余裕がない ”,“ 設備の能力不足 ” 等が重なって発生します。
HiRAC皆さんなら,そのときにどのような対応をおこないますか?
次のサイトにアクセスして,考えてみてください。技術倫理討論会
最後に大変残念な情報ですが,JISマークの表示認証の審査を行っている “ 登録認証機関 ” では,生コン会社の従業員からの内部告発が増加しているようです。
その告発内容は定かではありませんが,配合報告書の偽装 ( 未標準化骨材の使用 ) の割合がかなり高いとの事です。
燃料高騰や,コンクリート工事減少等から人員削減を強いられる生コン会社が多いため,告発はその腹いせかもしれません。
企業に不祥事は,その企業だけに留まらず,企業が属する業界全体に深い爪跡を刻みます。
一部あるいは,ごく一部が行った不正を,業界全体が同様な行為を行っているとした穿った見方が浸透します。
何れにしろ,残る真面目な企業が,一般の人々から失った信頼を回復しなければなりません。
谷が深ければ,山は高い
-ベトン・ボンド-