2008年7月21日 (月)

『 性善説 ・ 性悪説 』

ボンド,ベトン・ボンド。
今週も,M社が起こした,“ 生コン版偽装事件 ” のお話が続きます。
先週に引続き,“ 巷のうわさ ” も交えながら(公式の発表でない事をご理解下さい)続けます。

まずは,最近の動向からです。
 ・M社の溶融スラグを使用したコンクリートによる建築物は,建築基準法違反とされた。
            記者発表資料(鎌倉市 2008.7.14)
 ・茅ヶ崎市は,M社問題連絡調整会議を設置した。
            記者発表(茅ヶ崎市 2008.7.14)
 ・R社は,M社に溶融スラグを無料で供給していた模様。
 ・R社は,M社以外にも溶融スラグを提供した模様。
            カナロコ(神奈川新聞 2008.7.10)

ディベロッパーは,M社に対して “ 該当マンションを全棟買い取れ ” や “ コンクリートを打設したフロアーを買い取れ ” などと申し入れしている様子です。
M社の社長は,別の生コン会社をもう一社経営しています。
うわさによると,その一社もコンクリートのオーダーが激減しているとの事でした。
この最中,違法マンション物件を買取るなどの処置は,M社でも関係会社であっても “ お金 ” の問題から不可能と思われます。

また,ディベロッパーは裁判に訴えるやもしれません。
そうなると我々が一番知りたい “ 真実 ” は闇の中になってしまいます。
知りたい真実とは何か?
それは,M社が,溶融スラグを使用するようになった経緯です。
具体的には,社長あるいは経営陣はどのような方針を示し,どのように溶融スラグに到達して出荷するに至ったのかという事です。
新聞等では,生産管理部長の独断で使用に至ったと報道されています。
M社謝罪会見上,社長は 『 原材料と品質管理は,常務と部長に任せきりだった。 』 と言っています。

巷では,M社が存在する地域の生コンは,過当競争地区であり,生コン単価が 9,000円/m3 を下回っていたという噂があります。
また,昨今の原油高騰による原材料の運搬費や生コン車の燃料費が上昇等を考慮すると,出荷量に見合う利益があったのか疑問があります。
生産管理部長の言動では,溶融スラグ使用により 1,000万円程の利益がでたとの事でした。
恐らく,経営陣からは生コン原価対策を行うよう指示をしていたのではないでしょうか。
しかし,経営陣は違法行為を伴う対策の実施は望んでいなかったように思います。
また,使用を判断した部長や,溶融スラグを供給したR社は,溶融スラグがポップアウトを起こすとの認識を持っていなかったと思います。

次に “ 溶融スラグ ” についてです。
諸悪の根源となった材料ですが,先週もお話したように,材料としてはJISとして規格化されています。       JIS A 5031:2006
この規格の適用範囲には, 「 呼び強度 33 以下のレディーミクストコンクリートに適用できる 」 とはっきり記載されています。
なお,肝心の生コンの規格(JIS A 5308)では,溶融スラグを使用材料として認めていません。
近い将来,溶融スラグは生コンの材料として使用できるようになるのかもしれません。

今回,M社のJIS表示認証が取消されたのは,ポップアウトが原因ではありません。
配合報告書に記載した材料を使わずに生コンを製造し,かつ,それにJISマークを表示したことが原因です。
JIS表示認証は,取得した企業は対象となる工業製品にJISマークを表示できる権利ができるという制度です。
JISマークの表示は,ある一定の不良率以下となるように管理された工業製品であることを象徴しています。
このため,企業が自社製品にJISマークを表示するためには,その企業が十分な能力を有しているかどうかについて,企業の体制や生産製品が基準等に適合しているかどうかの審査が行われます。
制度は多少異なりますが,国土交通省大臣認定を取得するのも同様です。

JIS表示認定や国土交通省大臣認定の審査は,性善説に基づいて実施されています。
今回M社は,溶融スラグを配合報告書に記載することなく使用しました。
一般にコンクリート工事は,出荷に先立って,施工者立会のもとに試験練りが実施されます。
M社では,この試験練りは,配合報告書どおりの骨材を使用して実施していました。
結果,M社の配合報告書が “ ウソっぱち ” という事になり,JISや大臣認定を審査する立場になると,M社の品質管理はすべて信用できないと判断せざるを得なくなります。
また,性悪説の立場をとると,これらの審査を行うことが出来ません。
殺人の捜査のように,品質管理の裏付けを別の方法で検証しなければならなくなり,審査に大変な費用と日数がかかることになります。

今回M社の行為で最も重要なのは,この性善説を根底から崩してしまったことにあります。
一連の報道からは,生コンに何が混ぜられているか分からないというイメージを,一般の人々に植えつけてしまったのではないかと大変心配しています。
しかし,M社のような行為を行う生コン会社は,ごくまれであり,大半の生コン工場は規格や関係法令を健全に遵守しています。
なぜなら,ボンドが接してきた生コン会社で品質管理の責務を負う方達は,使用材料の変動を極端に嫌い,新しい骨材を使用する等について神経質な位慎重になる人が多いからです。
このため,M社生産管理部長が,実績が少なくコンクリートへの影響が十分に把握できていない未知の骨材を,他より先駆して(あるいは周辺の生コン会社に確認することなく)使用することを決断したことは信じられません。
これらのことから,生コンの信頼回復の努力をしなければなりません。

一方,生コン業界には,骨材の枯渇という問題を抱えています。
また,環境問題からごみや産業廃棄物を加工して骨材化した商品の開発を,自治体が中心となって研究しています。
さらに,土木・建築構造物は長期耐久性の確保を課題にしています。
ボンドは,これら3つの課題がお互いにバランスをとり,正三角形を描いてくれる事を願っています。

最後に HiRACの皆様へ
みなさんに未来から挑戦状が届いているようです。
それは,次の世代を担う高校生達からです。
さて,あの “ 暑い夏 ” が再び始まろうとしています。

5年ぶりに家族をつれて,故郷に帰省しました。
                                                                               -ベトン・ボンド-

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